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仙台高等裁判所 昭和26年(ナ)27号 判決 1952年3月03日

原告 川崎孝四郎 代理人 岡本共次郎

被告 岩手県選挙管理委員会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「昭和二十六年四月二十三日執行の岩手県九戸郡種市町長選挙の当選の効力に関する原告の訴願につき、被告が同年十一月五日附でした訴願棄却の裁決を取消す。右選挙における当選人館石基治の当選を無効とする。訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決を求め、その請求の原因として、

一、原告は昭和二十六年四月二十三日執行の岩手県九戸郡種市町長選挙における選挙人であるが、右選挙における当選人館石基治の当選の効力に関し、同年五月四日種市町選挙管理委員会に異議の申立をしたところ、同年六月二日右異議申立を棄却せられたので、同月二十三日被告に対し訴願をしたが、同年十一月五日右訴願を棄却する旨の裁決がなされ、右裁決書は同月十二日原告に交付された。

二、然し、当選人館石基治の当選は左の理由により無効である。

(イ)、館石基治は右選挙に際し同町議会議員であつて、町長選挙についての立候補を制限せられた公務員であるのにかゝわらずこれを辞することなく現職のまゝ、同年四月四日同町長選挙の候補者として、選挙長出石正武に届出をした。

(ロ)、当時館石基治が同町議会議員の公職にあるものであることは、同町においては一般周知の事実であり、しかも選挙長出石正武は、元同町助役、現同町選挙管理委員会委員長、同町監査委員であつて、館石基治の身分関係を最もよく知つていた者である。従つてこのような立候補無資格者の立候補届出は受理すべからざるものであつて、たとえ一旦受理したとしても、立候補を辞退せしめ、公務員たる地位を去つた後か、或は公職選挙法第九十条の規定により公務員たることを辞したものとみなされた後において立候補の届出をさせる措置をとるべきであるにかゝわらず右届出を受理したまゝ同年四月二十三日の選挙を執行したものである。

従つて館石基治は結局右町長選挙については被選挙資格のない者であつて、同人に対し為された投票はすべて無効であるから、同人の当選もまた無効である。

よつて本件請求に及ぶ次第であると陳述し、被告の主張に対し、館石基治が昭和二十六年四月十二日同町議会議長の許可を得て、同町議会議員の職を辞し、翌十三日その証明書を選挙長に提出したことは認めるが、最初に為された無効な立候補届出は、その後の補正によつて有効となるものではない。

と述べ、

証拠として、甲第一号証を提出し、乙第一号証の成立を認めた。

被告は主文第一項と同趣旨の判決を求め、答弁として、

原告の主張事実中、一及び二の(イ)の事実は認める。館石基治が種市町長選挙に立候補した昭和二十六年四月四日当時館石基治自身も、また選挙長も同人が任期満了により町議会議員の職を失つたものと誤解していたものであるが、その後右の誤りに気付いたゝめ、館石基治は同月十二日同町議会議長の許可を得て、同町議会議員の職を辞し、その証明書を立候補届出期間内の同月十三日選挙長に提出した。

従つて館石基治の立候補届出の瑕疵は右により追完補正されたものであり、選挙当時被選挙資格があつたのである。

と述べ、

証拠として、乙第一号証を提出し、甲第一号証の成立を認めた。

理由

原告主張の一及び二の(イ)の事実は当事者間に争がない。

而して、公職選挙法の規定により、立候補の適格を有しない者が立候補の届出をし、選挙長においてこれを受理した場合において、その立候補者が立候補届出期間内に立候補者たる適格を有するに至つた場合にはその立候補届出についての瑕疵は補正せられ、立候補者は被選挙適格を有するものと解すべきところ、館石基治が立候補届出期間内である昭和二十六年四月十二日館石町議会議長の許可を得て同町議会議員の職を辞し、翌十三日その証明書を選挙長に提出したことは当事者間に争がない。然らば、館石基治は立候補の届出をしたときには公職選挙法第八十九条の規定により立候補者たる適格を有しなかつたけれども、立候補届出期間内に同町会議員を退職し、立候補者たる適格を有するに至つたものであるから、本件選挙につき被選挙資格を有したものといわねばならない。

原告は、立候補者たる適格を有しない者の立候補の届出は無効であるから、たとえ、立候補届出期間内に、立候補者が立候補者たる適格を有するに至つた場合においても、無効な届出が有効となるものではないと主張するけれども、立候補の届出期間内に立候補者たる適格を有するに至つた以上、立候補者たる適格を有しない間に為された立候補届出を無効となし、更に立候補の届出を為すことを要するものとすることは、いたずらに無用の手續を強いるものであつて、右主張は採用できない。

然らば、館石基治は種市町長選挙当時被選挙資格を有したのであるから、同人の当選は無効とすべきではない。

原告の訴願を棄却した被告の裁決は相当である。

よつて、原告の本訴請求は失当であるから、これを棄却すべきものとし、民事訴訟法第八十九条第九十五条に則り主文のとおり判決する。

(裁判長判事 谷本仙一郎 判事 猪瀬一郎 判事 石井義彦)

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